社台色の闇
宝塚ビフォア-、アフター。
男は、静かに大敗の競馬を振り返った。
それが本来の岩田康誠なのに、気負い過ぎていた彼は、安田記念後の咆哮を本来の自分の姿だと信じ込みたかったのだろうか。
「俺は、結果を残すからね」
プレッシャーとの戦い。
レース後のインタビューでは、馬を思いやる気持ちに溢れていたのだが。
彼を守ろうとする義務感は、オーナーサイドからは感じ取れない。
小口の馬主を沢山抱え、客商売が最優先であることは大きな組織になれば当然とも思えるが、どういう理由であれ、こんなプレッシャーのかけ方では心が持たない。
配慮不足だ。
欧州タイプは急激な仕掛け、地方競馬出身だと横の動きの強引さが目立つ。
アメリカタイプは直線が長いと早仕掛けになり、中央の騎手は怖気づいたような消極的な仕掛けで勝ちを逃す。
日本の競馬は緩急の差が激しく、距離が延びると特にそのペース判断の難しさに拍車がかかる。
主要タイトル総なめのヤスとて、勝ち気が無用な斜行をもたらす騎乗がまま見られる。
体が反応してしまうのだろうが、この点の実力不足はいい印象を与えない。
ミスを責める必要はないが、理由の見つからない粗雑な騎乗は許されない。
彼自身、己の至らなさに対し忸怩たる思いだろうし、日々避けられぬプレッシャーと向き合っているはずだ。
自信があれば虚勢など必要ない。
彼一人を責めるのは間違っている。
必要なのは、時間を与えること。
いずれ全てを理解し、クリアしていくだろう。
そんな充実の40代を迎えようとする騎手に過度の期待をかけ、もし潰してしまったならば。
人格否定の囁きが、騎乗馬の質に影響してからでは手遅れだ。